PJ・タッカーとロケッツはスモールボールを「勝利の方程式」にできるか?

走れるビッグマン、クリント・カペラをホークスに放出し、「スモールボール」に戦術を振り切ったロケッツ。改めて、ロケッツはスモールボールで本当に優勝を狙えるのか、そしてその中でPJ・タッカーが担う役割について考察したい。

引用:「Can P.J. Tucker and the Rockets Turn Small Ball Into a Winning Formula?」(The Ringer)

初めに、タッカーの経歴について振り返ってみたい。2006年に2巡目35位でラプターズから指名を受けてNBA入りを果たしたが、ルーキーシーズンにうまく定着できず、フルシーズンを戦え切れないままNBAを離れた。2012年までヨーロッパでプレイした後、サンズと契約を結んで念願のNBAを復帰を果たし、現在の地位を確立。ロケッツには2017年に加入した。

今からすると信じられないが、2012年時点でタッカーはSGとしてプレイしていた。そこからNBAのサイズダウン化の潮流の中で、SF、PFとポジションアップしていき、そして今回のカペラの放出により、ついにCとしてプレイすることになった。まるで、スラムダンクの河田兄のような軌跡を辿っている。

(正式にCでプレイすることが決定し、Instagramでこんな自虐ネタを投稿したタッカー。)

カペラ放出後、初めての試合となったレイカーズ戦。アンソニー・デイビス、ジャベール・マギー、ドワイト・ハワードというリーグ屈指のビッグマン3人を擁するレイカーズに対し、苦戦を強いられると思われたが、いきなり大方の予想を裏切って見せた。リバウンドはレイカーズの38本に対してロケッツは37本とほぼ互角。15本のターンオーバーも誘い、好機を作り出した。また、ウエストブルックが平面でのミスマッチを生かして41点を奪った。終盤まで競ったが、最後は新加入のロバート・コビントンの値千金の3ポイントで追いすがるレイカーズを振り払い、勝利した。

マイク・ダントーニHCはスモールボールを軸に置いた新生ロケッツについてこう評する。

われわれは多少、変なチームなのかもしれない。ハーデンもタッカーもゴードンも、皆が自分より大きい選手を守れる。確かに上背はないが、われわれは屈強なんだ。

―マイク・ダントーニ

スモールボールへの移行で多くの恩恵を受けている選手の一人であるウエストブルックも、スモールボール導入を歓迎する。

私が1on1で攻める時、私がやりたいようにできる。至ってシンプルだ。難しいことはせず、ドライブを仕掛けて、点を取りやすい選手にボールをさばけばいい。

―ラッセル・ウエストブルック

数字も、スモールボールへの移行がもたらす成功の可能性を物語っている。カペラがベンチに下がりタッカーが事実上センターのポジションでプレイする、ダントーニが最も多く使う4パターンの布陣では、ネットレーティング(※)が84.2と、恐るべき数字を叩き出している。数字を重視するロケッツにとってこれは大事な指標で、カペラを放出した一番の要因と言っても過言ではないかもしれない。

※ネットレーティング:100ポゼッションあたりの平均得点数を表す「オフェンシブレーティング」と100ポゼッションあたりの平均失点数を表す「ディフェンシブレーティング」の差のこと。要は、オフェンスとディフェンスの総合力を示すもので、勝てるチームほどネットレーティングが高い。

引用:「PJ Tucker, Houston Rockets’ Middle Linebacker, Is Blitzing The Golden State Warriors」(Forbes)

タッカーは、屈強な体躯を生かせるし、クイックに動ける。しかし、やはりサイズのある選手とのマッチアップでは常にファウルトラブルがつきまとうし、たとえばニコラ・ヨキッチのような多彩なタイプの選手の相手はもっとやっかいだ。実際、トレード後2試合目となるサンズ戦では、91-127と大敗。まだまだ不安定要素が大きいのも事実だ。

しかしそれでも、チームメイトたちはスモールボールの持つアドバンテージを強調する。

スモールボールを展開するわれわれに対し、それが不利に働くと考える人は多い。でもその半面、われわれにはアドバンテージもある。われわれは非常にクイックで、われわれが5アウトでプレイする時、相手にもまた5アウトでプレイすることを強いることができる。もし相手が不慣れな5アウトでプレイしなければならない時、われわれが思う通りにバスケットできる。

ーオースティン・リバース

スモールボールによって、より多くのスペースが生まれる。守備でも、われわれはよりアクティブに動き回る。直近5試合では、ターンオーバーを誘発してからの速攻を数え切れないくらい決められた。それこそ、われわれの生きる道だ。

ージェームス・ハーデン


相手チームにセンターがいなければ、「センターがいないぞ!ポストアップしろ!」という声が飛んでくるのはごく自然なことだろう。しかし、そこにこそ勝機があるとロケッツは本気で考えている。シーズン終了時、最後に笑っているのは、スタンダードなバスケを展開する29チームか、それともスモールボールを戦術のメインに据えるロケッツか。ロケッツの革新的な挑戦に今後も注目したい。

引用:「Rockets Forward PJ Tucker Downplays Missing on the NBA All-Defense First team」(Essentially Sports)

JJ
I Stan Basketball. / Started watching NBA since 2003 / A Big Fan of LeBron & Lakers / An Alumnus of University of Tsukuba / An Editor / A Blogger

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