凍結療法――レブロン・ジェームスも愛好する魔法の治療法

自身の体を維持するために、年間約1.5億円を費やしていると言われるレブロン・ジェームス。彼には、厳格に従うルーティンがあり、彼の家にも治療のための多くの機器があるという。それらにより、ジェームスの体は大きな故障がなく健康に保たれ、シーズンの82試合(昨季は71試合、今季は72試合)およびポストシーズンを戦い抜く強靭な体がもたらされている。

レブロン・ジェームスが愛好する治療法の中でも、特徴的かつ効果的なものの一つが、「凍結療法(クライオセラピー)」だ。近年、アスリートの間で非常に人気のある治療法であり、NBAでもレブロンだけでなく、多くの選手が定期的に使用していると言われている。

そこで今回は、その凍結療法をピックアップ。基本的な使い方や抜群の効果、NBAにおける活用拡大の実態など、選手やコーチたちの生の声を追いながら、凍結療法のリアルを解剖してみたい。

引用:「Uninterrupted: LBJ Uses Frozen Chamber to Speed Recovery」(Bleacher Report)

治療の具体的な方法は至ってシンプル。選手は、マイナス160度(!)に設定されている「クライオチャンバー」と呼ばれる冷凍室に、2〜3分間入る。彼らは、入る際に専用の保護具(厚手の手袋、靴下、サンダル)を着用するので、手の指先や足のつま先などは安全だ。冷凍室は基本的に、冷たい浴槽(アイスバス)のアップグレード版だと考えてもらってかまわない。フィラデルフィア・76ersに所属していた(現在はブルックリン・ネッツに所属)ジャスティン・アンダーソンは、「アイスバスの『10倍』優れている」と語っている。

凍結療法の効果としては、主に下記が挙げられる。

ケガの治癒を早める
痛みを和らげる
乳酸を減らす
炎症を取り除く
痙攣(けいれん)を減少させる
・脳内で分泌され、高揚感や満足感を得られるホルモン「エンドルフィン」を放出する
可動域を改善する

コービー・ブライアントショーン ・ マリオンジェイソン ・ テリーラシャード ・ ルイスグラント ・ ヒルといった往年の名選手たちが、現役中の比較的早い段階で凍結療法の信者となったという。(マリオンは、クライオチャンバーの中で引き起こされる一時的な不快感を紛らわすため、よく歌を歌っていたらしい)。ダラス・マーベリックスは、マイアミ・ヒートを降して優勝を遂げた2011年のプレイオフ中、チーム全体で凍結療法を取り入れていたという。

熱唱中?

引用:「How NBA players take care of their bodies: Cryotherapy」(HOOPSHYPE)

凍結療法は現在、治療法としてかなり認知され始めており、レブロンのほか、ステフィン・カリーカール ・ アンソニー・タウンズブレイク・グリフィンディアンドレ・ジョーダンハリソン・バーンズベン・シモンズディアンジェロ・ラッセルトバイアス・ハリスジャベール・マギーなど、若手を含め多くの選手が治療の一部として、日常的に凍結療法に取り組んでいる。90・00・10・20年代と4つの世代でプレイした史上初の選手となり、惜しまれつつ昨季限りで引退したビンス・カーターも使用していた。

引用:「Athletes Are Freezing Their Muscles To Perform Better And It’s Working」(elite daily)

それは私にとって、そして私の身体の回復にとって、非常に驚異的なものだった」とジャスティン・アンダーソンは言う。「今では、試合中も試合後も、まったく痛みを感じなくなった。それは、私が自分自身のボディケアのために正しいことができているという証だ。非常に多くの利点がある。クライオチャンバーの中に入っているときは本当に寒いけど、3分はあっという間に過ぎていく。そして外に出ると、今までで経験したことのないような最高の気分を味わえる。まるで、元々何の問題も痛みもなかったような気になるんだ」。

引用:「Brooklyn Nets announce signing of Justin Anderson」(247Sports)

クライオチャンバーのあまりの冷たさに選手がショックを受けるのはよくあることで、身体がどのように反応するかわからないということもある。キングスのルーク・ウォルトンHCは、レイカーズのHC時代、初めて凍結療法を経験する前の彼選手に向かって警告していたという。「初めて使った時は最悪だ。心の声が聞こえてくるよ。『死ぬかもしれない』ってね」。

しかし、そんなウォルトンも実際は、凍結療法のかなりの信者だ。実際に、多くの首脳陣やコーチがこの画期的な治療法を受け入れており、いくつかの組織が独自にクライオチャンバーを購入し、選手に使用を奨励している

リーグのあるコーチは、匿名を理由にこのように語る。「毎年、治療にまつわる新しい方法が耳に入ってくる。NBAは『模倣のリーグ』だ。誰かが特定の新しい回復法や治療法で成功しているという場合は、すぐに情報が流れてくる。私はある面白い話を覚えている。ある時、ステフォン・マーブリーがバレエのクラスを取ったというので、誰もが『バレエが良いのか!』と、彼に追随した。『膝に負担をかけることなく体を鍛えられるし、実際に体が楽になるんだよ。やってみるか!』って感じさ。それから、次にヨガが流行し始めた。ヨガは素晴らしい。私は、選手たちをヨガのセッションに連れていき、柔軟性や呼吸法などを鍛えるようになった。私が言いたいのは、あるチームが選手を助ける新しい何かを見つけたら、他のチームもその成功を真似しようとするだろう、ということだ」。

アイスタブは昔から存在したが、クライオチャンバーが治療を次のレベルに引き上げ、今では皆が使っている」とコーチは続ける。「私たちは、アイスタブに3分間入ってからスチームルームに3分間入るのを交互に行うというケアをずっと続けてきた。一部の人は今でもそうしているが、凍結療法ならわずか2分半で完結する専門家の中には、アイスタブに1時間浸かっているのと同等の効果が得られると言う人もいるくらいで、非常に画期的かつ効果的だ」。

NBAで冷凍療法の人気が高まっているのは、口コミによるところが大きい。選手たちが「スッキリした」「痛みを感じなくなった」と絶賛する噂が流れ、それによってチームメイトや周りの友人たちも自然と試してみたくなるのだ。

マーベリックスでのルーキーイヤーに、何人かのベテランから、練習後に毎日アイシングするよりも、凍結療法を試したほうが絶対に良いと言われたよ」とアンダーソンは語る。「NBAのシーズンは非常に長く、スケジュールも厳しいので、ベテランたちはいつも『自分の体を大切にしろ。最高の投資とは、自分自身への投資なんだ』と教えてくれた。だから私は、アイスタブに入り続けた。その後、最終的に、ハリソン・バーンズ、デロン・ウィリアムズ、ドワイト・パウエルから、冷凍療法について学ぶに至ったんだ。彼らには、『お前、まだ凍結療法を試したことがないのか⁈』と驚かれた。私は、『そうなんだ、まだないんだ。見たことはあったんだけど、出身の大学ではこういった機器がなく、使うに使えなかったんだ」と言った。そうしたら、彼らは凍結療法を紹介してくれた。それ以来、ずっと使っているよ。最高のレベルでプレイしたいなら、時間とお金を費やして自分の身体に投資する必要があると気づいたんだ」。

引用:「How NBA players take care of their bodies: Cryotherapy」(HOOPSHYPEE)

そして、今は私が多くのチームメイトに冷凍療法を紹介しているよ」とアンダーソンは続ける。「(当時所属していた)シクサーズはまだ若く、自分たちの身体にとって何がベストなのかを知ろうと努力しているところだ。JJ・レディックやアミール・ジョンソンのような経験のあるベテランは素晴らしいアドバイスを与えてくれるので、明らかに多くの助けになる。しかし、私の本当に良い友人であるマケール・フルツ(現在はマジックに所属)は、凍結療法を紹介した時に、私が新人だった時に私が見せた反応とまったく同じ反応を見せた。彼は弱冠19歳で、NBAのスケジュールでプレイしたことがなく、82試合に伴う痛みに対処した経験がなかったため、最初はその効果を実感していなかった。しかし、トレーニングキャンプの後に、彼はこう言ったんだ。『痛みがあるから、これにトライしてみたいと思う』。チーム全体が、間違いなく凍結療法にもっと夢中になってきており、それが大いに役立つことがわかり始めている」。

凍結療法が皆を虜にするもう一つの理由は、尊敬するベテラン選手が体に痛みがあるために、若いチームメイトよりももっと実践しているからだ。若い選手たちは、コービやレブロンのような尊敬するスーパースターが取り組んでいるのを見たり聞いたりすることで、『自分も試してみたい』と思うようになる。これは、若い選手が年を取ったりケガをしたりするまで待つのではなく、自身の身体のメンテナンスを積極的に行うということにつながるので、リーグにとって素晴らしいことだ。

ベテランの選手たちが若い選手たちをこのようなものに巻き込んでくれたのは本当に素晴らしいことだ」と先のコーチは話す。「30代半ばになっても高いレベルでプレイできるのは、それを理解している選手だけだ。彼らは己の体を知り、効果的な状態を維持するために何をすべきかを完全に理解している。彼らは自分の体がNBAのスケジュールに対応できるように、時間とエネルギーを費やしている。単純に、NBAのスケジュールの1週間を乗り切ることは、30代の一部の人には厳しいかもしれない。人々はそれがどれほど激しいことかを理解していない。30代半ばで、82試合のシーズンを乗り切ることができ、場合によっては成功することができる選手は、まさに真のプロフェッショナルだ若い選手たちが同じような習慣を身につけられるように、ベテランの選手たちが周りで支えている姿を見るのが好きなんだ手遅れになるまでそのことを理解しておらず、真剣に取り組まない若い選手を見ることは珍しくない」。

私が選手に説明してきた方法は、こうだ。『もしお金を印刷する機械を手に入れたとしたら、それを正しく取り扱い、常に手入れをし、正しい燃料を入れ続けるよな?』 もちろん! その機械が問題なくお金を印刷できるように、常に最高の状態にするはずだ。さて、NBA選手にはお金を印刷する機械がある。それが、体だ。問題が起きるのを待つのではなく、適切なものを体に取り入れ、自分自身のケアを入念に行い、定期的にメンテナンスをして問題を未然に防ぐ必要がある。若手の多くは、練習を終えたらすぐにXbox Oneの前に戻る。リラックスするのは確かに良いが、適切なクールダウンをするために、より多くの時間を取り、回復のためのマッサージを受け、クライオチャンバーを使用するんだ。Call of Dutyはどこにも行かないから!」。

いかがだっただろうか。私自身、この凍結療法に取り組んでいるのは、レブロン・ジェームスのように、自分の身体のケアに心から情熱を注ぐ一部の選手だけだと考えていた。それほど、凍結療法はまだレアな存在で、取り組んでいる選手こそ珍しいのだと思っていた。しかし実際には、凍結療法はすでにNBAで、ベテランだけでなく若手にまで浸透しつつある治療法なのだと知り、非常に驚いたのと同時に、シーズン82試合やプレイオフを戦い抜くということがどれだけハードなのかということを、改めて思い知らされた。

凍結療法はもちろん、新たな治療法や機器は日進月歩で進化を続けている。その科学技術の進歩により、NBA選手の身体がより高いレベルで保たれ、選手たちがより強く、より長くプレイする姿を見られることに、一ファンとしてもっと感謝しなければならないと強く感じた。

JJ
I Stan Basketball. / Started watching NBA since 2003 / A Big Fan of LeBron & Lakers / An Alumnus of University of Tsukuba / An Editor / A Blogger

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