ある謙虚なNBAモーメントに日本から拍手喝采が贈られる

ダンクされ、それがネットで拡散される。「うわあ」と声を漏らす。渡邊雄太でなければそうなる。渡邊雄太の努力は、母国・日本のバスケットボールファンを大いに魅了している。

トロント・ラプターズの渡邊雄太は、NBAで3年目のシーズンに突入した。
Source: “A Humbling N.B.A. Moment Brings Cheers From Japan”(The New York Times)

トロント・ラプターズの渡邊雄太は、2月の試合でミネソタ・ティンバーウルブズのガード、アンソニー・エドワーズからダンクされ、望ましくない形で拡散された。

渡邊がダンクを止めようと試みて失敗に終わった写真や動画が、ソーシャルメディアであっという間に広がり、話題になった。俳優でバスケットボールファンのケビン・ハートのインスタグラムで1億人以上のフォロワーにそのダンクの写真がシェアされ、ハートは次のように述べた。「このディフェンダーはすぐにリーグから追い出されることになる。もう戻ってくることはないだろう」。

しかし、渡邊はまだここにいる。NBA3年目のシーズン、渡邊は母国・日本のバスケットボールファンの心を掴み、ラプターズでローテーションの座を奪ってみせた。

柴田健(しばた・たけし)氏は、日本文化出版のバスケットボールビジネスのマネージャーであり、2010年から東京にある同社で記者や編集者として活躍している。東京出身の彼は、1980年代に衛星放送でショータイム・レイカーズを見て育ち、有名な実況アナウンサーであるチック・ハーンの実況を聞いて英語を学んだ。

今季、柴田氏は渡邊をカバーしている数十人の日本人記者の一人として彼を取材しているが、渡邊が高校時代に香川県の尽誠学園高でプレイしていた頃から彼を追いかけている。

私が見たのは、信じられないほどの高い運動能力を持った選手だった」と柴田氏は言う。「彼はエネルギーの人、努力の人だった」。

2019年、当時メンフィス・グリズリーズに所属していた渡邊は、ワシントン・ウィザーズのフォワード、八村塁(左)とジャージーを交換した。
“A Humbling N.B.A. Moment Brings Cheers From Japan”(The New York Times)

渡邊は今季、ゴールデンステート・ウォリアーズのステフィン・カリー、ロサンゼルス・レイカーズのレブロン・ジェームス、そして2019年に日本人として初めてドラフトで1巡目指名を受けたワシントン・ウィザーズのフォワード、八村塁を抑え、日本でジャージーが最も売れた選手となった。

確かに、八村のほうが知名度が高く、リーグでスターになる可能性も高いかもしれないが、ジョージ・ワシントン大で4年間を過ごした後、2018年にドラフト外でメンフィス・グリズリーズと2-Way契約を結んだ渡邊のストーリーは、日本でも多くの人を魅了している。

ブロンクスで育ち、2006年に日本に移住して以来、日本のバスケットボールを取材しているエド・オデブンは、「彼は、より謙虚な道を歩んだ」と語る。「日本の文化は、諦めないことや目標に向かって努力することに価値を置いている。そんな日本の人々は雄太の姿を見て、共感をする」。

パンデミックの影響により、柴田氏は1994年に妻と新婚旅行をしたトロントに赴いて渡邊を直接取材する予定だったが、今季はそれが叶わなかった。その代わりに、柴田氏は朝5時に起床し、千葉県にある自宅からラプターズを取材し、毎日最大4本のバスケットボール記事を日本文化出版のウェブサイトに掲載している。(今季、ラプターズはトロントではなく、カナダの新型コロナウイルスに伴う健康上の規制から、今シーズンはフロリダ州タンパに本拠地を置いてシーズンを送っている。)

柴田氏は、自宅で仕事ができる柔軟性に感謝しながら、ラプターズのニック・ナースHCと親交を深めた。ニック・ナースHCは、バーチャル記者会見の最後に日本の記者からの質問に答えている。

彼と話をしながら、彼から返事をもらうのを楽しんでいる」と、柴田氏は言う。「彼は私が英語を話せないことを知っており、私は彼と何とかコミュニケーションを取ろうと努力している。彼は、私のような人間にもとても寛容だ」。

ラプターズでの最初の66試合、渡邊は47試合に出場し、平均14.2分、4.2点を記録している。

雄太がコートでたった5秒間だけのプレイだったとしても、私は良いストーリーを考えられると思う」と彼は話す。「なぜなら、日本のバスケットボールファンにとっては、その1秒1秒が大切なのだから」。

柴田氏は、1992年に日本文化出版に宣伝担当者として入社し、日本におけるバスケットボールの黄金時代の幕開けを感じていた。

彼が入社したのは、1992年のバルセロナオリンピックでマイケル・ジョーダン率いるドリームチームを観戦し、世界的にバスケットボールへの関心が高まった直後だった。ちょうどその頃、井上雄彦氏が描いた日本の人気バスケットボール漫画「スラムダンク」が出版された。1990年から1996年まで連載されたこの漫画は、日本国内で1億2,000万部以上を売り上げ、八村や渡邊を含む何百万人もの子どもたちがバスケットボールに熱狂するきっかけとなった。

やがて、日本では2つのリーグが生まれた。2005年にbjリーグが誕生し、2007年にはJBL(後のNBL)が誕生した。国内リーグが2つ存在することはFIBAの一般規約に違反し、両リーグを統括していた日本バスケットボール協会は2014年に国際大会の出場停止処分を受けてしまう。

NBAは2019-20シーズンの開幕前に、東京近郊のさいたまスーパーアリーナでヒューストン・ロケッツとトロント・ラプターズのプレシーズンゲームを開催した。
“A Humbling N.B.A. Moment Brings Cheers From Japan”(The New York Times)

これまで、実に多くの障害があった」と柴田氏は語る。

しかし、ここ数年で状況は変わり始めている。2015年にFIBAによる制裁が解除されると、2016年、B.LEAGUEが誕生した。計47チームが3つのディビジョンに所属する新しいプロリーグで、最初の5年間で大きな成功を収め、地元のファンや主要なスポンサーを魅了してきた。

八村と渡邊は、ゲームをただ見るだけに留まらず、自分たち自身が最高のレベルでプレイする姿を見せることで、新しい世代にインスピレーションを与えている。(2004年、田臥勇太は日本生まれの選手として初めてNBAでプレイしたが、フェニックス・サンズではわずか4試合のみの出場だった)。

日本では、野球やサッカー、テニスや相撲などに比べ、バスケットボールはあまり見られていない。先月、ラプターズが渡邊との契約をNBAの標準的な契約に変更したというニュースのように、地元の新聞がバスケットボールの記事を載せることはある。しかし、NBAの試合は、リーグと楽天が提携するストリーミングパートナーシップを通してオンラインでしか見ることができない。

日本でバスケットボールの報道を見つけるには、積極的に探さなければならない。

元レイカーズのセンター、ロバート・サクレは、日本で3年間プロとしてプレイした経験があるが、長い間、ニュースメディアは決まった形でしか試合の内容を報道しなかった。

日本の人々は、はるかに敬意を払ってくれる」とサクレは言う。「彼らは、試合中に何が起こったのかを知りたがっている。ストーリーを見つけようとすることはなかった。彼らは、なぜ勝ったのか、なぜ負けたのかを知りたがっている。そういう意味ではユニークだった」。

現在、ソーシャルメディアのアカウントやYouTubeチャンネル、ポッドキャストの数が増えてきており、北米でのバスケットボールの取り上げ方を反映した、コート外での個性豊かなストーリーを提供するのに役立っている。

1989年から1994年まで日本でコーチを務めた経験があり、定期的に来日しているデトロイト・ピストンズのドウェイン・ケーシーHCは「この10年で変わってきた」と言う。「若い世代がバスケットボールに熱中しているのが伝わってくる。日本の人々も、北米の若い世代が注目するものと同じものに夢中になってきている」。

NBAの各チームは、このようなデジタルコンテンツへの新しい需要を認識している。ラプターズは2月、舞台裏を紹介するビデオシリーズ「Open Gym」のエピソードで渡邊を取り上げた。これは、今季で最も視聴されたエピソードになっている。そして2019年、ウィザーズは日本でバイリンガルのスポーツ記者をしているザック生馬氏をデジタル特派員として採用した。チームには日本専用のTwitterアカウントがあり、生馬氏は海外のファン向けに日本語のポッドキャストをホストしている。

柴田氏は、オンラインでさまざまなストーリーを語ることにも挑戦している。その中でも特に人気があったのは、トロントのラプターズファンの女性たちが自分たちを「the Watana-baes」と呼んでいることについての特集だった。この特集では、「bae」という言葉を説明したもので、日本のテレビ局でも紹介された。

※この「bae」は、例えば恋人やパートナーなど、その人にとって愛しい人に対して使われる呼び方で、同時に誰かに対してそのような愛しい思いを抱く人の方を指すこともある。つまり「Watana’bae’」は渡邊の熱烈な女性ファンを指し、一方で使い方によって女性ファンにとっての渡邊自身を指すこともあるらしい。(参照:「トロントで『Watana’bae’』こと渡邊雄太に夢中の女性ファンが急増中!?」)

2月にミネソタ・ティンバーウルブズのガード、アンソニー・エドワーズが渡邊にしたこのダンクの写真や動画は、ソーシャルメディアで話題になった。
“A Humbling N.B.A. Moment Brings Cheers From Japan”(The New York Times)

若いバスケットボールファンのデジタル活動は、北米の視聴者に、日本でのバスケットボールのイメージを伝えるのにも役立っている。

渡邊に対するエドワーズのダンクの動画が話題になってから数週間後、日本の記者が渡邊にそのプレイについて質問した。このインタビューは、Twitterのファンアカウント「@RaptorsInfoJPN」によって英語に翻訳された。

渡邊は言う。「ああいう状況って、特にこういう時代なので、ネット上でバーッと広がるのを恐れて皆よけている人がほとんどなんですけど。僕がそれをし出すと、ここにいるべきじゃないと思いますし、プレイングタイムをもらうべきじゃないと思っているんで」。

柴田氏にとって、このプレイは渡邊の仕事に取り組む姿勢を象徴するものであり、日本の新しい世代のバスケットボール選手がいつか同じ道を辿ってNBAに入ることを夢見る扉を開いたのだ。

たった2点だったんだ」と、柴田氏は言う。「彼が自分の体を犠牲にしてダンクを止めに行ったことを誇りに思う。NBA選手になるためには、空中にいる選手を止めなければならない。そうするためには、隠れていてはいけないんだ」。■

<おまけ>

Anthony Edwardsのダンクについての渡邊雄太の回答全文。

「けっこう実はそのことについて話す機会があればなというふうに思っていて。やっぱり、ああいうダンクかまされると、バカにされるというか、笑い者にされますし、悪い意味で有名になったりもするんですけど。

僕の場合、あのダンクをブロックに行かないという選択肢はもう絶対にありえないですし。あれを見過ごして簡単に2ポイントをやられるぐらいなら僕がダンクされたほうが。あれは結果、僕のファウルになって3点プレイをやられたので、ファウルをするということは絶対ダメなんですけど。

たぶん、ああいう状況って、特にこういう時代なので、ネット上でバーッと広がるのを恐れて皆よけている人がほとんどなんですけど。僕がそれをし出すと、ここにいるべきじゃないと思いますし、プレイングタイムをもらうべきじゃないと思っているんで。

あれに関しては、3ポイントをやらしてしまったという部分が僕の反省点であって、別にダンクをされたからと言って、もし同じシチュエーションが今後あれば毎回跳びますし。100回のうち99回ダンクされても、1回ブロックできる可能性があるなら、僕は必ずああいう場面で絶対ブロックに跳びます」。■

JJ
I Stan Basketball. / Started watching NBA since 2003 / A Big Fan of LeBron & Lakers / An Alumnus of University of Tsukuba / An Editor / A Blogger

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